2018-05-12

インド式?かみ合わない部下への対処法

年を取って、「自らやる」と「部下にやってもらう」のバランスが変わりつつある。
具体的には、どんどん「部下にやってもらう」の比重が増えている。

そうすると、どうしても、「部下が、思った通りに動いてくれない」ということが増えて、ついつい一喜一憂してしまう。

  • 「この分析も入れておいてくれ」とお願いしたのに、なぜか反映されないままアウトプットが上がってくる
  • 上がってくるスピードが、期待・締切対比で遅い
  • 「はい、わかりました」というのに、出てくるアウトプットが不十分
  • 「どうしてその作業をやらなければならないのでしょうか」と、そもそも指示に納得してもらえない
等々。

イライラしてしまうこともあるのだが、そんなとき、留学時代、親しくしつつも頻繁に小競り合いをしていたインド人同級生のT君の発想法を拝借して乗り切っている。

本稿では、苛立つ将来の自分のために、備忘までインド人同級生から学んだその発想法を記録しておきたい。



ムカつくだけなのか、実害があるのか、落ち着いて考えてみる

留学中、よくグループワークで組んでいたインド人のT君。元金融マンで、金融マン特有のやや冷酷にも感じられる合理性と、インド人特有?のマイペース性を兼ね備える男で、日本人の自分から見ると、相当に危なっかしい、「憎めないけど、結構むかつく」やつだった。
(しかし、あの「ムカつくが憎み切れない」感じはどうやったら醸し出せるのだろう。。。)

そのT君、例えば締切を守れなかったり、グループ課題をさぼったり、人の作業にフリーライドしてきたりといった「グループワーク上のラフプレー」を頻発する。

チーム内でもっとも神経質な小物だった自分はついつい「おいおいT、お前宿題はどうしたの」みたいな小言を言う役回りになっていた。

インド人特有なのか彼特有なのかわからないが、T君は基本的には謝らない。本当に屁理屈しか言わないこともある。だいたいは自分に理があると思うのでプンプン怒るのだが、ある日彼から以下のように言われたときには、思わずハッとしてしまった。

自分「グループワーク、お前の担当分はスカスカじゃないか。皆ちゃんとやってるのに」
T君「うん、お前の言ってることはわかるけど、これでもちゃんと点はもらえるから大丈夫だよ。君の満足には足りないかもしれないけど、実務的に問題なくね?」
(perhaps it's not as good as you expect, but it's not too bad and it should work. Wouldn't it? Come on, dude!)

彼の主張をやや拡大解釈してしまっているかもしれないが、自分はこの言葉を聞いて結構反省するところがあった。というのも、

  • 自分がTにいら立っている理由について、胸に手を当てて考えてみると、「実務的に問題があり、自分に実害が及ぶから」とT君由来の要因というよりも、「思った通りやってくれないことにムカついたから」という自分の心の反映である側面があるのではないか。
  • だとすると、それってT君のせいというより、自分のわがままなのではないか。
  • グローバル、言い換えるとDiverseなチームでの仕事において、チームメイトが期待通りの成果を出してくれるなど、むしろ期待するほうがtoo muchなのではないか。相互にボトムラインを定めて、それを超えていればいったん良しとするのが実務的なのではないか。
  • 実害があるような「ボトムライン割れ」の場合は毅然と文句を言っていいと思うが、もし「実害はない程度にはちゃんとしているが、期待は満たしていない」というときに怒るのは、多かれ少なかれ自分のエゴの発露であり、便益より害悪の方が大きいのでは
といった感じ。


この経験を敷衍すると、「部下の仕事に満足できない」という状況に直面したときには、

  1. まず、いったん深呼吸する。
    決してメール即レス等、反射的な対応はしない
      
  2. 不満な状況が、以下の2つのいずれかなのか、分別する:
     ・「自分に実害が及ぶほどマズい」のか?
     ・「単に自分がムカついているだけで、実はそんなに実害はない」のか?
      
  3. 自己分析の結果が前者のときは、部下に怒るなり対話するなりする。
      
  4. 自己分析の結果が後者の場合は、深呼吸して、現状を受け入れる。
所詮は他人。自分のコピーじゃないので、100%思った通りにやってくれることなど期待する自分がおかしいのだ。

あるいは、実は部下は部下なりに思うところがあって、意図的に指示に沿わない対応をしている可能性もある(例:発注の意義に納得できていない/上司の指示を丸のみするより、部下なりに工夫した方が全体最適だと思っている等)。自分だって上司の発注を意図的に「丸のみせず、少しずらして」対応することはしょっちゅうだ。

「ムカつくかどうか」という判断軸「だけ」で頭に血を上らせず、「実害があるかどうか」というもう一つの判断軸で落ち着いて考えるアプローチは、T君との会話から得た貴重な教訓だ。


困るのは部下だけなのか、自分にも被害が及ぶのか、冷静に考えてみる


上記の「実害」という意味では、深呼吸した後によく気付くものとして、「結局、この不十分なアウトプットをそのままにしても、上司たる自分は実は困らなくて、単に部下のコイツが困るだけ」という状況がままある。たとえば

  1. 責任論に発展するほどでもない小さな仕事であるとき
  2. その作業の主担当者が、上司たる自分ではなく部下であることが広く知られているとき
等。対外的な仕事だとそうも言えないことが多いが、実は社内での仕事の9割は上記に該当するように思う(生きるの死ぬのといった大きな話ではないし、大ボスもその仕事が自分の仕事なのか部下の仕事なのか見極められる)

そういうときは、上司たる自分には被害が及ばないことが多く、上記「実害があるかどうか」という判断軸において「実害なし」となり、従って部下のアウトプットをそのまま放っておいても構わないことになる。

すなわち、部下が思うように仕事してくれないときに自問自答すべき問いとして、「単に期待通りでないからムカついているだけでは」という問いに加えて「困るのは部下だけで、実は自分は困らないということはないか?」という問いをしてあげるとさらにクールダウンできる。

あるいは、きちんと分担を定め、それを関係者に広く明確化すると、「自分の領域」と「部下の領域」の境界線を明確化することができて、結果的に「自分が困る領域」を狭めることも可能になる。

スルーは人のためならず?


また、そのような仕事においては、変に未然に上司たる自分が直してしまうより、むしろきちんと炎上させてあげた方が有益なことも多い。

上司たる自分が炎上する前に指摘してもその問題点を腹落ちできない場合が多いが、大ボスや外部顧客から怒られるような炎上が発生すれば部下は数段早く・深くその問題点を痛感することができる。

言わば、上司たる自分がスルーすることは、自分の利益(自己保身や精神衛生確保)のみならず、部下の利益(より早く気付ける)にも合致するのだ。


まとめ

インド人T君との口論の中から編み出した手法として、部下が思うように動いてくれないときに、以下の通りのスルー術を提案したい(将来、頭が血が上っている自分へのリマインダ)。

  1. まずは深呼吸。脊髄反射しない。他人は他人。
      
  2. 仮に部下の仕事に不満があったとき、「単に自分の期待通りではないことにムカついているだけでは?」と胸に問う。
    「期待通りでない」というだけで怒ってよかった時代は終わった。
      
  3. 次に「実は困るのは部下のアイツであって、俺ではないのでは?」と問う。
    部下が炎上するのは必ずしも残酷ではない。炎上した方が学べることもあるので、これはむしろ部下のためにもなる。
      
  4. 以上を手掛かりに「不満なだけで、実害はないのでは?」と問い、自分に実害があるときだけ、指導・説教・添削・対話等所要の対応を行う