2020-04-18

矛盾や弱みが見えないリーダーの方がむしろマズい

ベンホロウィッツの「What you do is Who you are」が「Who you are」というやや微妙なタイトルながらも邦訳された。

この本では、様々な過去のリーダーの行為を通じて組織文化についてかなり体系的に整理が試みられている。

非常に面白い本だが、脇道的に気付いた点として、本書で紹介されているリーダーの多くが、偉大な改革者であった一方で、多くの矛盾や弱みを抱えている

ハイチ独立のために戦った ルーベルチュールは組織規律のために「妾を持つな」というルールを自ら打ち立てておきながら自身には婚外子等がいたとか、

ミシガンの刑務所にて、囚人たちに出所後にも生きる規律・文化をもたらしたシャカ・センゴールはそもそも殺人で服役する時点で相当な問題を抱えているし、

実力主義や多様性を尊重することでかつてない規模のモンゴル帝国を築いたチンギスハンも、言っていることとやっていることに大きく矛盾があったと書かれている。

一度目に読んだ時点では、自分はこれをネガティブに受け止めていたのだが、
再読した今回、もしかすると、この矛盾や弱みは、むしろリーダーに重要な要素の一つなのではないかと少し錯綜的な感想を抱くに至った。

非常識、あるいは非倫理的な発想になってしまっている気もするが、一応、書き残してみたい。




矛盾や弱みのないリーダーや組織などいない、であれば、それが見えないリーダーには、「まだ見えない問題」がある

まず、前提として、以下のような「不完全ながら、努力を続ける組織・リーダー観」を想定する。


  • 組織は複雑で、ダイナミックなもの。あちらを立てればこちらが立たず、今日の正解は明日の不正解。
  • 理想的な状態に均衡することなどなく、常にもがきながら、行ったり来たりして少しずつ改善していく
  • リーダーも神ではなく、正解に一直線に向かうというより、試行錯誤しながら少しずつ正解に近づく

完璧なツルっとした「問題がない」組織・リーダーではなく、上記のような「矛盾があって、問題があって当たり前」の組織・リーダーを念頭に考えると、矛盾や問題がない方がむしろおかしいという言い方ができないか。

どうせ矛盾や問題があるのなら、その矛盾が見えない組織やリーダーよりも、その矛盾が見えているリーダーの方がある種健全であり、自然であり安心できることはないか。

仮に矛盾や問題のない、無菌室的なクリーンな組織・リーダーを前提に置けば、矛盾や弱みのないリーダーの方が望ましいということになるが、

逆に、矛盾があって当然の世界観においては、矛盾が見えないリーダーは、むしろ矛盾や弱みを隠していると解釈した方が自然ではないだろうか。





矛盾や弱みのないリーダーは、複雑性を欠き、リーダーとしての迫力・厚みがないのではないか


矛盾や弱みのないリーダーは、究極的には機械に近づいてしまい、逆に代替可能性があるというか、平板な存在になってしまうことはないか。

能力が高いこと、人格が優れていることは勿論重要だ。しかし、それだけではそのようなリーダーの行動は予想できてしまい、複雑性に欠ける。そのような「言うことを大抵予想できるリーダー」は、理論の世界ではよいかもしれないが、現実の世界では尊敬あるは畏怖を得られないように思われる。

教科書の世界では「クリアに、その考え方をオープンに示す」リーダーが良いとされるかもしれないが、その一方で、何を考えているかわからないリーダー、行動に矛盾があり下から見て予見可能性が低いリーダーは、良くも悪くも迫力が出て、下からすると求心力を感じるように思われる。


矛盾や弱みを持たないリーダーが運営する組織は、メンバー同士が相互依存関係を作れず、薄い組織になってしまわないか


やや論理飛躍があるかもしれないが、矛盾や弱みを抱えるリーダーは、誰かに頼らざるを得ない。


  • 部下に八つ当たりする感情的なリーダーは、部下に依存している
  • 不倫しているリーダーは、その相手に依存しているし、あるいみ組織にも依存している
  • ある分野に詳しくないリーダーは、その分野について社内外専門家に頼らざるを得ない
等。

これについても、理想的なリーダーシップ像を前提にすると「頼りない」「弱っちい」という話になってしまうかもしれないが、

むしろ「不完全であって当たり前」という現実的な組織観・リーダーシップ像を前提にすると、頼ることができるリーダーがいる組織はむしろ強いのではないか。

3月のライオンにも似たようなセリフがあった気がするが、リーダーが頼るからこそ、メンバーも安心して他人に頼れるようになる。メンバー同士がある程度頼りあわないと、組織は1足す1が2以上にならない。

「弱いリーダー」は、理論上はイマイチなのかもしれないが、実務上は組織を強くする効果があるのではないだろうか。