参考書籍は愛読のArzacバリュエーション本。
1. フリーというが、なぜ設備投資は控除するのか?金利や配当は足し戻すのに、なぜ設備投資は足し戻さないのか?
→ フリーと書いてあるので「いかなる影響からもフリー」「100%フリー」のような印象をあたえるが、フリーキャッシュフローの定義におけるフリーとは「投資家への影響・資本構成からフリー」という意味に過ぎず、結構狭義なもの。
2. 設備投資は控除して、金利や配当は足し戻さないが、その逆のような「金利や配当は控除するが、設備投資は控除するような指標」はなぜ見られないのか?
→ 企業金融の発想として、「企業が持続的に存続するためには、稼ぎがまずは投資に向けられないと、成長あるいは持続ができない」というものがある。
もちろん、法的には、投資する前に借金返済したり納税したりしないと怒られる、というか倒産してしまう。しかし、投資家や銀行が企業を見るとき、借金返済とか納税とかしたら、もう資金が尽きてしまい、投資に充てるお金がないような企業はサステナビリティがないということになってしまう。持続あるいは成長するに十分な投資を行ってもなお、投資家や債権者に支払う資金があるような会社かどうか。それを見るための指標がFCFである。
3. なんかNOPLATとか色々めんどくさいのだが、どうして営業CF-投資CFではいけないのか?
→いけなくないです。もし営業CFや投資CFがわかっているなら、わざわざめんどくさいNOPLATとか運転資金増減とか試算するより、判明済みのキャッシュフロー計算書記載のデータを使った方が楽だし正確である。ただし、注意点が二つある。
(i) 将来のプロジェクションにあたっては、キャッシュフロー計算書はふつう作らない。
過去データからヒストリカルFCFを計算するなら、キャッシュフロー計算書で単純に営業CFと投資CFを引き算すればいい。しかし、えてしてFCFを実務において計算するときは、過去データのみならず、将来推計を行うのではないだろうか。話がいざ将来推計となると、キャッシュフロー計算書を一から全部作るよりも、その一部であるNOPLATや運転資金増減などを推計する方が楽、と言うことかと思う。
将来値についてはNOPLATとかを使う方が楽だし、実績値についてはキャッシュフロー計算書記載データを使う方が楽なので、いずれにせよ楽な方を使うのがよいと思う。
(ii) 営業CFも、投資CFも、多少の調整が必要
まず、営業CFには、少なくとも日本基準では、支払金利が含まれてしまっている(会計ルールに基づく。なお、配当金は営業CFではなく財務CFに入っているので、足し戻す必要なし)。
すなわち、機械的に営業CFを使ってしまうと、本来足し戻すべき支払金利を控除してしまっているので、営業CFが過小評価になってしまう。それゆえ、支払金利を足し戻してあげる必要がある。
しかも、単純に支払金利を足し戻してしまうと、今度はタックスシールドをダブルカウントすることになってしまう。なので、結論としては、営業CFからr(1-t)を足し戻してあげる必要がある(ただし、tは限界税率。実効税率ではない)
また、投資CFについても、その投資のすべてが「企業の持続・成長に不可欠な投資」とも限らない。なので、その実質を見極めつつ判断する必要があるのだが、実務的には「有形固定資産の取得」だけをピックアップして、それ以外は計算に含めないという運用がなされることが多い。
(真面目にやるなら、「恒常的な投資」なるものを精査・判断して推計することになる)
まとめると、営業CFや投資CFを使ってもいいのだが、やるのなら
(営業CF - r(1-t) ) - (投資CFのうち、有形固定資産の取得だけ) をもってFCFとすると、間接法で計算されるFCFと整合性がとれる。
4. 営業利益(1-t)から計算するのと、最終利益から金利を足し戻して計算するのと、どっちが適切?
→ 両者の違いは、営業外損益・特別損益が含まれるか含まれないかの違いになる。
実績値の計算においては、そういった営業外・特別損益がイレギュラーなものであったとしてもなかったとしても、キャッシュはキャッシュ、FCFに含めるべきである。
他方、将来プロジェクションにおいては普通そういった営業外・特別損益は予想しないことが多いので、そうすると営業利益から計算しても、最終利益から計算しても、試算値は等しくなる。
すなわち、
実績値→営業外・特別損益も、キャッシュの出入りがあったのであれば含めるべき
将来値→営業外・特別損益は予想しないはずなので、気にしない
と言う感じになる。