2017-01-22

ゲーム理論と交渉:読むのは2手先で良い

留学中、手を変え品を変え叩き込まれるものの一つがゲーム理論。

勿論基本的なコンセプトそれ自体も学ぶのだが、どちらかというと、それをどう応用するかについて、戦略論とか交渉論とか組織論といったコースで叩き込まれた。

学部時代もゲーム理論は触ったけど、当時浅はかだった自分はそれが人生の何の役に立つのかあまり考えることもなかった。留学時にその応用を馬鹿丁寧に叩き込んでもらえたおかげで、ようやく、その有用性を少しだけ理解できた。

そのうち、その後の仕事においても有用と思う「ゲーム理論的発想」について、備忘のため書き散らしてみたい。


ゲーム理論


ミクロ経済学の一分野であるゲーム理論。一大分野なので、いくらでも研究は進んでおり、興味がある人が参照できる文献はいくらでもある(一般向けで面白いのだとコレ)。

自分はゲーム理論、というか、「ゲーム理論的発想」を以下のようにおおざっぱに理解している:

  • 自分が判断・行動すると、相手はそれに影響を受ける
  • その結果、相手は自分の判断・行動に反応して、判断・行動を変える
  • ついては、先読み・先回りして「相手が取るであろう判断・行動」に対応できるような判断・行動をとるのが良い

言い換えると、自分の都合や今の状況だけを根拠に判断・行動をしてしまうのは危険、ということ。

将棋の「数手先を読め」という話は、まさにゲーム理論的発想。

ナッシュ均衡

ゲーム理論ではこういった「相手の行動の予想→先回りして反応」という考え方が取り扱われるが、これを関係者全員が繰り返した極限的状況がナッシュ均衡と言われるもの。

たとえば、とある商店街で、弁当屋Aと弁当屋Bが隣接しているようなとき。ゲーム理論的世界では、以下のようなことがありうる:

  1. 弁当屋AとBは、唐揚げ弁当を500円で販売していた。
     
  2. Bとの競争に勝ちたいと思ったAは、ある日唐揚げ弁当を450円に値下げした。
     
  3. これを受けて、負けられないBは、負けじと唐揚げ弁当を400円に値下げして対抗。
     
  4. 対抗されてAはびっくりしたが、ここで負けるわけにはいかないので300円に値下げ。
     
  5. そのような応酬が続ているうち、AもBも、コストを考えるとそれ以上値下げはできなくなり、結局AもBも唐揚げ弁当は100円で落ち着いた。
     
  6. Aの「Bに勝ちたい」という思いから始まった動きは、結果的にAの期待に反し最悪の結果になった。すなわち、Bと変わらず、かつ採算性が悪い価格になってしまい、利益はあがらない。。。トホホ

ここでは、「A=B=100円」がナッシュ均衡である。ナッシュ均衡には
  • それ以上「さらなる対応」が起こらない(均衡する)
     
  • 得てして、誰にとってもあまり得しない状況
という特徴がある。

実務上のインプリケーション

留学時の交渉論の教授がくれた実務上のTipsに以下のようなものがあった:
  • 相手の行動を読むのは重要であり、必ず行うこと
     
  • だが、読むのは2手先にとどめておくのが良い
     
  • 1手先だと読みが浅いし、3手先だと深読みになる
これは、やってみるとわかるが、びっくりするくらい有効であり、重宝している。

理論上はナッシュ均衡が最適解になることが多いが、実務上はそうでもない。というのも、現実には理論にはない以下のような実情がある:
  • たくさん先読みするのは大変(純粋に難しいし、計算に時間がかかる)
     
  • 現実には、自分はさておき、相手はそこまで「先の先の先」まで読んでこず、ナッシュ均衡戦略は空振りしやすい
     
  • ナッシュ均衡戦略は、得てして効用が低い
こういった実情まで織り込むと、上記の「先読みは2手先くらいがちょうどよい」というTipsが結構有効になってくるところ。

先ほどの弁当屋の事例だと、
  • 弁当屋Aがゲーム理論を一生懸命勉強したが現場感覚のないような人であった場合、彼は弁当を100円にしてしまい、Bともども苦しむことになろう。もしかすると彼は「いや、でも、これが理論上最適だ」とか言うかもしれないが、そんなものは彼の生計を立てていくにあたってはへのツッパリにもならない。
     
  • 弁当屋Aがより実務感覚のある人であった場合、ナッシュ均衡を理解していようといまいと、2手先で先読みを止めて、あえて400円で値下げを止める。理論の世界では相手が350円にまで値下げしてくるリスクもあるのだが、現実には案外そんなことは起こらない。

まとめ

  • 何かしようとしているとき、あるいは、誰かと対話しようとしているとき、相手のとるだろう対応をきちんと先読みできているか?自分の都合だけで考えていて、相手の反応を受けてビックリしてしまってはいないか?
     
  • 逆に、先読みしすぎて、自分も幸せにならないような「ナッシュ均衡」をやってしまってはいないか?理論と現実のギャップを意識できているか?

Further Reading

「行動経済学の逆襲」(Link)・・・上記の「2手先」の実験をした事例等も載っており、交渉にもう少しだけ科学的要素を織り込んでみたい人にとっては必読。