2017-01-29

心理的安全+ストレッチ

たまに読み返している「チームが機能するとはどういうことか」(Link)を久々にパラパラと眺めていて思ったことについて。

この本では、チームを機能させるにあたってのリーダーの仕事として

  • チームのミッションを、「実行」というよりも「学習」と再定義する(リフレーミング)
     
  • 心理的安全を確保する
     
  • 早く失敗し・失敗から学べる仕組みを構築する
といった点を挙げている。今日はその中でも、心理的安全について少し考えてみたい。




心理的安全とは


チームメンバーがいきいきと働くためには、チーム内の心理的安全が重要。

本書ではNASAの事例が挙げられているが、自由な発言が奨励されておらずメンバーが心理的に委縮していると、適切な問題提起ができず、結果的に致命的な事故を巻き起こしてしまったりする。

出世に響くかも・・・とか、怒られるかも・・・とか、序列を気にしないと・・・とか思ってしまい自由な発言ができないようだと、チームはその機能を十分に果たすことができず、下手をすると単にリーダーの偏見を拡大再生産するだけのものとなってしまう。

そのため、チームリーダーは、もしそのチームで成果を出したいのであれば、何はともあれメンバーに心理的安全を感じてもらうことが大事になる。

そのための手段として、自分達のチームが「学習するチームである」ということを手を変え品を変えフレーミングしていくことが大事になってくる。例えば

  • 難しい課題に直面しているのだから、完璧になんかできっこなくて、学びながら頑張ろう。
     
  • 我々はプロかもしれないが、今時既存のスキルだけで完璧にこなせる楽な仕事なんてなくて、何かしら新規性・複雑性が伴っている。プロとしての既存のスキルをベースとしつつも、たくさんのことを学びながらやっていかねばならない。
     
  • 学びながらなんだから、失敗してナンボ。むしろ序盤のうちにどんどん失敗して、チームとして失敗を乗り越える力・PDCA力をつける方が良い。
     
  • 委縮して失敗を避けたり隠したりするのはむしろNG。
といったメッセージを、壊れたラジカセみたいに言い続けることが重要になってくる。


また、場合によっては、チームの実情や経緯を踏まえた具体的なローカルルールを設定することも有効。例えば

  • 呼び方をルール化する(肩書で呼ばず、さん付けを奨励する等)
     
  • Yes butルール(どんな意見も頭ごなしに否定することはしない)
など。やり過ぎると宗教っぽくなってしまうが、もしそういったローカルルールがあった方が安心できるなら有効ではある。



心理的安全があるチームのメリット


そのようにして心理的に安全なチームを構築できれば、半分勝ったも同然。そのようなチームでは、

  • 「なんでも言っていい」という安心感があれば、議論が活発になる
     
  • 「皆自分の意見を尊重してくれる」という期待があれば、相互信頼が高まる
     
  • 「失敗が許される」という共通認識があれば、失敗を包み隠したり、リスク回避的になることが減る
等の効果が見られるようになる。


今時の難しいプロジェクトは、多かれ少なかれ不確実性が高いことから、「ミスなく完璧に」なんて心を縛ってしまうと、できることもできなくなるし、皆委縮してしまうだろう。


それよりは、どんどん失敗して、どんどん議論して、どんどん次に行くスタイルの方が勝率は高く、そういった一見雑な方式で前に進もうと思うと、どうしても作為的に「安全な場の設定」をすることが必要になってくる。



心理的安全のデメリット:「たるみ」


このように、心理的安全があればあるほど、チームのパフォーマンスは改善しうる。

では、心理的安全は絶対的概念であり、安全度が高ければ高いほど良いのだろうか?

この問について考えるときには、心理的安全はあくまで目的ではなく、「チームのパフォーマンス最大化」という目的にとっての手段でしかないことを再確認する必要がある。すなわち、

心理的安全の改善

→活発な議論、リスクを厭わない態度etc

→チームパフォーマンス最大化

という経路があるから、はじめて心理的安全には意義が認められる。


他方で、心理的安全には副作用があることも理解する必要がある。すなわち、

心理的安全の向上

→気が緩み努力を怠る、議論がナアナアになるetc

→チームパフォーマンスはむしろ悪化

ということも起こり得てしまう。

すなわち、心理的安全はその運用を間違えると、チームメンバーの心を弛緩させてしまい、達成したいゴールへの執着心を鈍らせてしまうことがある。



心理的安全は、チームのパフォーマンス最大化にとって、出発点の一つに過ぎず、「心理的安全な場を作ったらそれでオシマイ」では決してない。

むしろ、心理的に安全な場を作ったら、次に必ずメンバーの奮起・ストレッチを促さないと、それはただの「緩んだチーム」になってしまう。

したがって、理想的なチームにおいては、メンバーは「失敗してよい」という意味では心理的安全を感じているが、「目標に向かって奮起せねばならない」という意味では緊張感を持っている必要がある。

両方あって初めてメンバーのパフォーマンスが最大化されるのだ。


まとめ


  • あなたはチームに心理的安全をもたらしているか?心理的安全は自然にできるものではなく、フレーミング等、リーダーの慎重な工夫により初めて獲得されるものであり、それがないとメンバーは委縮し、できることもできなくなる。
     
  • ただし、心理的安全はスタート地点に過ぎない。心理的安全を構築したら、必ずそれとセットでストレッチを促すことが重要。
     
  • リーダーは、心理的安全を構築する「優しさ」とストレッチを促す「厳しさ」の両面を兼ね備えていること(二重人格性)が重要。優しさなき厳しいだけのリーダーは単なるブラック上司だし、厳しさなき優しいだけのリーダーは単なる間抜けである。
     
  • この二重人格性は、ある程度きちんとコミュニケーションしないと、メンバーの混乱を招きうる。「この点では優しくしたいが、この点では厳しくします」といった感じで、どのようなメリハリがあるのか、相反し得る優しさと厳しさをどう両立するのか等、丁寧なコミュニケーションが必要。ここをさぼると、心理的安全が損なわれる。