2016-11-13

Focus on your game / 他人にいらいらしないための小技

生きているとどうしても、人と意見が衝突してしまい、自分の意見が通らず苦い思いをしてしまうことがある。そういうとき、気の持ちようによってはイライラが募り、友人とケンカしてしまったり、会社を辞めたくなってしまったりする。

自分も昔はしょっちゅうイライラしていたが、留学先の教授から学んだ「Focus on your game」という発想に触れてから、イライラすることが減ったし、衝突を過度に恐れずにふるまえるようになった気がしている。

以下、Focus on your gameの概念について少し考察してみる。



Your Game: その仕事をあなたはコントロールできるか?

本稿におけるYour Gameとは、我々が自分の意志・権限・責任でコントロールできる(意思決定できる・取り回しできる)仕事のこと。あえて対義語を英語で言ってみると、Their Game=Game beyond your controlという感じだろうか。

およそ組織で働くほとんどすべての人は、自分ひとりで全てをコントロールすることはできない。若手社員は、全社戦略を変えられないのはもちろんのこと、所属する部門の方針を変える権限もない。

また、社長であっても、全社戦略は手を入れられても、逆に個別部門の細かいオペレーション方針には口出しできないことが殆どである(権限移譲が進んでいる会社で、社長決裁ではなく部長や役員決裁であれば、それは当該事案が社長にとってコントロールし難いものであることを示す)。

殆どの人がコントロール外の仕事に多く直面する一方で、普通は、ある程度仕事を細分化していくと、「コントロール可能な仕事」すなわちYour Gameが存在している。権限が少ない若手社員であっても、たとえば「個別営業先との日々のコミュニケーション」とか「基礎分析資料の作成」等のタスクレベルでは、上司は実質的にそれを軽くレビューする程度で、その企画・分析はその若手社員にとってYour Gameである場合が多い。

このように、仕事はコントロール可能なYour Gameと、コントロールできないTheir Gameに分解できる。
一連のアプローチの出発点として、いま自分が頭を悩ませている仕事がYour Gameなのか否か、立ち止まって考えてみることがポイントとなる。


実は若手社員も、社長も、コントロール外の事案であっても影響力を及ぼすことは不可能ではない。
決定権限がどうであれ、極端な例を挙げると「聞いてくれないと辞める」とか「聞いてくれないとお前の出世をだいなしにする」等の脅しを使えば、多かれ少なかれ、コントロール外であってもその事案に影響力を及ぼすことはできるだろう。

こういった「コントロール外の仕事で影響力を及ぼすためのアプローチ」はそれはそれで色々あって、それが上手な人が「社内政治家」なんて言われたりするのだが、本稿ではそういった話はいったん脇において、「コントロール外の仕事に影響力を及ぼすことは難しい」という立場で議論することにする。

Focus on your game = コントロール外の仕事に気を使いすぎない

仕事をYour GameとTheir Gameに区分けしたら、次は、それぞれに対する対応方針を考えることになる。以下、「Focus on your game」という言葉に含意されるポイントをいくつかに分解してみる。

(1)コントロール可能な仕事を優先的に扱い、全力で取り組む

自分でコントロール可能な仕事=Your Gameが定義できたら、納期や他の仕事との兼ね合い等について最低限の配慮をした上で、その仕事を最優先ミッションと定義し、全力で取り組む。

何しろコントロール可能なので、
・頑張れば頑張っただけ結果が改善することが多いし、
・他人との議論に振り回されることも少ないし、
・結果が出しやすいので、
ハマれば非常に面白くなる。

自分のようなペーペーレベルの仕事であれば、
①コントロール可能可否について立ち止まって考えて、「自分の仕事」と思っている仕事のうちYour Gameを絞り込む
②自分にとってのYour Gameを最優先として、さらにそれを細分化して優先順位立てを行い、優先順位下位のタスクを可能な限り後回しにする
という優先順位付けを行うことができれば、おおむね変なことにはならない。

また、できれば、上司部下等と仕事の分担について入口段階でよく話し合うことで、自分の仕事の境界線をできる限り明確化しておくことが望ましい。

(2) Their Gameは、あくまで他人の仕事と捉え、ほどほどの距離感で接する

自分の仕事にフォーカスするためには、自分の時間や情熱をできるだけたくさん自分の仕事に費やす必要がある。そのためには、他人の仕事がどれだけ面白そうに見えても、それはTheir Gameであると割り切り、自分の仕事に専念するのが良いように思う。

少なくとも、コントロール外できないTheir Gameを自分の仕事を勘違いして疲弊することにはあまりメリットはない。

他人にヤキモキしている若手の多くは、Your GameとTheir Gameの境界線の区別がつかず、Their Gameまで抱えた挙句それをコントロールできず苦しんでいる人が多い。

シニアでは、得てして部下に任せるべきところまで自分の仕事と錯覚して手や口を出してしまい、本来自分がフォーカスすべき自分の仕事がおろそかになっている人が多い。

これはマイクロマネジメントと錯覚されがちだが、単に部下の仕事に中途半端にくちばしを突っ込んでいるだけであり、マネジメントですらなく、ただの役割分担意識不足であろう。

他人の仕事が低調に終わっても、それはその仕事をコントロールする他人の失敗であり、あなたの失敗ではない。むしろ、他人の仕事に気を取られて自分の仕事がおろそかになると、それはいよいよ自分の失敗となる。自分の守備位置を守れない人に他人をサポートする資格はないのではないだろうか。少なくとも、「自分の持ち場をそっちのけにしてでも、他人を守ってくれ」という期待をされている可能性は低い。

(3) とはいえ、他人の仕事のなかにもYour gameは存在しうる

こういう話をするとありがちなミスとして、「他人の仕事を手伝わなくなり、チームプレイができなくなる」というものがある。自分の仕事「しか」やらず、他人が困っていても助けなかったり、コントロール外の事柄に関するミーティングで「俺、知らね」みたいな態度で臨んでしまったり。

ただ、たとえ権限は他人にある仕事であっても、たとえば「第三者としての助言」や「経験則のシェア」や「細かい作業のサポート」等、さらに細分化すると、Your gameあるいは「自分の仕事として定義可能なメタ領域」が存在することが多い。

なので、望ましいのは、
①変に責任感を感じてしまったり、のめりこんだりすることは意識的に回避すべきだが、
②適切な助言を行ったり、作業だけはサポートしてあげたりと、メタ「自分の仕事」があるならそこは手伝ってあげる
③ただし、自分の仕事をきちんとやっていることがあくまで優先
という対応になるように思われる。

(1)(2)までできれば、スタッフレベルとしては十分だと思われるが、仮になんらかのリーダーシップを取りたいのであれば(3)ができることが望ましい。やっぱり人は感情の生き物なので、「俺知らね」という態度が透けて見えてしまうと他人のあなたに対する目は厳しくなってしまう。

ただ、繰り返しだが、(1)(2)がないなかでいたずらに(3)ばかりやってしまうと、「自分の庭も掃除できないのに他人の庭に来るな」という話になってしまうので、あくまでその優先順位には気を付ける必要がある。

※チームメンバーに仕事の境界線意識があいまいな人が多い場合は、あえて「俺知らね」的な態度を明確化することで、境界線意識を意識してもらうよう働きかけるというギリギリ感のあるプレースタイルもありえよう。

参考文献

パウエル国務長官の書籍(→リンク)は、リーダーシップという意味でも有用だが、もっと素朴に、「気の持ちよう」という意味でも非常に有用。今回のポストに関連し、たまに読み返している。