2016-11-05

他人は変えられない?

自分の会社の中でも、友人等の話を聞いていても、よくある愚痴ネタに以下のようなものがある:


・「部長はわかっていない。本来であればXXXすべきだ。これでは改善が見込めない」
・「常務は問題から逃げている。俺だったらYYYする。実に残念だ」


なんというか、非常に「あるある」な感じだと思う。自分だってしょっちゅうそういう感情を抱くことは否定できない。


ただ、そういうときに、自分が留学中にとあるアントレ系の授業で実務家出身の教授が言っていた言葉がブーメラン的に刺さるので、少しその辺について紹介・考察してみたい。




他人や法律は変えられない(と思っておいた方が得策)


その教授が口を酸っぱくして言っていたのは、「他人や法律を変えることはできないと思え。あるいは、そう思ったほうが実務的」という発想。


言い換えると、
・他人や法律の不条理に怒る暇があれば、冷徹にそれを所与と捉えよ。それはBeyond your Capacityだ
・その上で、かかる制約条件下で、いかにWithin your Capacityの成果を最大化するかにフォーカスせよ
・それが起業家精神ってものだ。起業家がやるべきは制約条件下利益を最大化させることであり、制約条件の批判は学者の仕事だ
っていう感じ。


この考え方に立つと、まずは何より、Within your Capacityでしっかりと自分の仕事をすることが大事であるという発想になる。上司がイマイチであっても素晴らしくても、いずれにせよ、自分のミッションを理解し、そのミッションの達成にコミットすること。それを起点とする方が、よりよい結果が得られる。


あるいは、この発想が弱いと、自分には変えられない上司や社会への憤りで頭がいっぱいになり手が止まり買い。そうすると、「怒っていたら日が暮れていて、気が付いたら自分の仕事は終わっておらず、当の上司に怒られちゃった」みたいなシュールな状況が待っている。


また、「Beyond your Capacityを変える」という観点においても、自分の仕事をしっかりやることが案外最善策だったりすることが多い。たとえば、
・Within your Capacityの仕事をきちんと仕上げる
→評価が上がる
→発言力が上がる
→上司や同僚があなたの意見に耳を傾けるようになる
・・・という経路。まさに「急がば回れ」である。


このアプローチさらに言い換えると、
・他人に憤って居酒屋で愚痴ったり会議室で陰口たたく時間は、Within your Capacityの仕事を遂行するという観点からはアイドルタイム=時間のロス
とも言える。99%の状況では、どれだけ外部がイマイチだったとしても、それでもなおWithin your Capacityにもやるべきことはあるはずで、まずはそれをしっかりやることに尽きるのではないだろうか。


かといって、自分の殻にこもるのも違う


「Beyond your Capacityにとらわれすぎず、自分の仕事に専念する」という発想を持つだけで、体感的には、この辺の問題は7割程度は解決するように思う。他方で、それに特化しすぎてしまうと、それはそれで良くない。


例えば、典型的には「イケてないお役所仕事」とかの事例でよくある話として、「窓口のたらいまわし」みたいな話。それぞれの部署が自部署の仕事にしか関心をもたず、他部署のことに口を出すことはおろか関心を持つこと自体も倦厭し、結果として全体最適が達成されない・・・みたいな話がある。


末端のスタッフであれば、そういった「とにかく自分の領域だけ専念」という発想でいいかもしれないと思う。ただ、組織全体のパフォーマンス最大化にかかわるような立場の人であれば、もう少しの背伸びが求められる。

かといって、変に関心を持ちすぎたり、口を出すと、「自分のやるべきことに専念せよ」みたいな話になってしまい、「おいおい、言っていることに矛盾がないか?」という話になってしまう。すなわち、そこのバランスをいかにして取るか、Beyond your CapacityとWithin your Capacityのバランスをどう両立させるかというところが一連の話のキモであるように思われる。自分の仕事に専念しないとパフォーマンスは出ないが、自分の仕事しか見ないと庭先掃除人になるというジレンマ。


およそ仕事って「数ある矛盾・ジレンマ等を、どのような価値観でどのようにバランスさせるか」がキモであると思われるが、こと本件については、自分は「See beyond your capacity, act within your capacity」が一つの考え方ではないかと思っている。

・Beyond your Capacityについて、目をふさいではいけない。あくまで究極のゴールは組織全体のパフォーマンス最大化。ここをさぼると庭先掃除人、下級スタッフになってしまう。

・でも、Beyond your Capacityに手を出すのは控える。思考はBeyond含めて張り巡らせるが、行動はあくまでWithin your Capacityで。

・理想は、Beyond your Capacityに問題意識を持ちつつもWithin your Capacityに専念
→パフォーマンス改善
→発言力向上
→Within your Capacityが拡張 あるいは Beyond your Capacityが「向こうから改善してくる」
・・・という好循環ではないだろうか。

また、同じ「自分のやるべきことに専念する」でも、Beyond your Capacityの事柄について問題意識を持てている場合とそうでない場合では、そのアウトプットの質は変わってくる。あまりに視野が狭く自分の問題意識しか解決できていないようなアウトプットが、上司や外部に評価されることは少ないだろう。


他人は変えられないからこそ・・・


このように、「他人は変えられない」という仮説から思考や行動の軸を組み立てると、いろいろとはかどるし、ストレスも軽減する。自分の仕事が終わればスッキリするし、上司も評価してくれるし、もしかすると居酒屋で言っていた問題意識の解決も早まるかもしれない。


少なくとも、「他人の愚痴ばっかり言って、自分の仕事がオロソカな人」をぐいぐいと突き放すことができるし、おそらくそのくらいじゃないと競合と戦うこともできないだろう。


もちろん、この「他人は変えられない」仮説はあくまで上記のような実務的アプローチをとるための仮説に過ぎない。「他人を変えられるかもしれない」という発想に基づいた別のアプローチもあるので、それは別途論じてみたいと思う。

(*)もちろん、AirBnBみたいに「既存の枠組みを変える」ことに正面からチャレンジすることで大きな価値を生み出そうとする試みもありうる(AirBnBがいいサービスなのかどうかは筆者にはわからないけど)。ただ、こういった試みは標準的というよりはむしろ例外的で、標準的にはやはり、既存の枠組みを所与と捉えつつ、その中から、自分のできることの範囲内で(Within your Capacity)商機を探す方ががチャンスは多いし簡単だと思われる。