2018-01-13

ICOって本当に盛り上がるのだろうか

年末年始の余裕時間に、遅まきながら仮想通貨について少し勉強してみた。

仮想通貨一般論とかいったん理解できたし、ビットコインが上がるか下がるかといった話は「全然わからない」ということだけがよくわかったのだが、一連の話題の中で、ICOについてはかなり面白かったので、自分なりに整理してみた。

結論としては

  1. 実質的に有価証券であり、本来規制に服すべき『脱法的資金調達としてのICO』が早晩ちゃんと規制されるようになると、ICOってそこまではやらないのではないか
  2. 他方で、従来型の資金調達に関し、決済や契約等のプロセスをブロックチェーン技術で簡素化・低コスト化する動きは、骨太な変化として期待できるのではないか
と感じている。以下その詳細。


ファクトファインディング

Q1.        ICOInitial Coin Offering)とは何か?

  • 企業が、仮想通貨を調達し、その見返りにトークンを提供するもの。
  • 近時「伝統的な資金調達と比較して迅速・低コストな、代替的な資金調達手段」として注目を浴びている:
    証券会社の仲介を要さない
    証券取引所の審査を受ける必要がない(目論見書も不要で、概略を示したホワイトペーパーなる書類を示す程度でよい)証券法制に服する必要がない
    瞬時に、かつグローバルに資金調達できるといった点
  • インターネット上で行うので、必然的にグローバルオファリングになる(国内に限定することがむしろ困難)。それゆえ、グローバルレベルで金融法制に抵触しない必要がある

Q2.        ICOで発行されるトークンは債券や株式と同様、企業の利益や資産の所有権に紐付くのか?

  • どんなICOもありうるのだが、発行体の資産や利益を裏付けとするようなトークンを提供するようなICOは、「有価証券の発行」とみなされ、各国の法規制の対象となる可能性が高い
  • 言い換えると、ICOを「迅速・効率的・自由な資金調達」として行うのであれば、トークンを発行体の資産や利益に紐付けない必要がある。以下、有価証券とならないようなトークン発行を行うICOのことを「規範的なICO」と呼ぶ。
  • そうではない「有価証券的なICO」も、黎明期の混沌のなかで複数事例が出ているが、明確に逆風が吹いており、早晩規制対象下に入るものと予想する。

Q3.        ICOは資金調達とのことだが、借入?株式発行?

  • 規範的なICOは、借入・株式発行いずれでもない
  • 発行体からするとトークンという電子資産の販売、投資家からするとトークンの購入となる。
  • 有価証券型ICO、すなわち借入または株式発行にあたるようなトークンも設計しうるが、その場合は規制対象となるものと考えられ伝統的資金調達に対する優位性が残るか疑問

Q4.        ICOは会計処理上どのように整理されるか?

  • 規範的なICOでは、調達金額は売上高として収益計上されることになろう。
  • 収益ゆえ、同年度に相当な損金計上があるかは繰越欠損金等がないと、調達資金に法人税が課税されてしまう。これは伝統的資金調達と比較したときの大きなデメリット


自分なりの咀嚼

Q5.        規範的ICOでは、会社の利益や資産に裏付けを求められないにもかかわらず、それでもなお投資家がICOに応じる理由は何か?

  • 規範的ICOだけでそこまで盛り上がるだろうか。正直疑問
  • あえて説明を試みると、以下が挙げられる
    ①その会社のサービスのネットワークの価値が本当に評価されている
    ②単なるバブル
    ③単に有価証券型ICOが横行しているだけで、早晩沈静化する④一般投資家が仮想通貨と有価証券を誤解している

Q6.        ICOはその後の資金調達や上場の妨げにならないか?

  • 規範的ICOは単なるトークンの販売に過ぎないことを踏まえると、一義的には上場の支障にはならなそうだが、実務が確立しておらず、当面は慎重に臨んだほうがよさそう
  • メタップスの事例が示す通り、収益計上が認められるまで一時的に前受金として負債計上をせざるを得ない可能性もあり、実務がこなれるのを待ちたい
  • 有価証券型ICOの場合は話が別で、基本的に脱法的である可能性が高く、有価証券的ICO実績をもつ企業に投資する場合には、IPOが当局や取引所から認められないリスクを十分に想定して検討に臨むべきものと考えられる

Q7.        規範的ICOではトークンが発行体の利益や資産を裏付けとしないとのことだが、それでは、発行体の信用力や成長性を分析する必要はないということか?

  • デリバティブを組むにあたり、まずは当該デリバティブの分析に焦点を置きつつ、別途カウンターパーティーリスクも検証するのと同様
  • トークンの価格に直接影響しないという点では、発行体向け投融資と比べると必要性は低い一方、発行体が倒産すればトークン(及びその後の仮想通貨)は流通しなくなるので当該トークンの価値は暴落する。よってカウンターパーティーリスク分析はやはり必要

Q8.        ICOが既存の金融業の仲介機能を駆逐する」という言説をどう理解すればよいか?

  • 勿論そういった可能性も考慮しておくべきだが、以下は理解した上で落ち着いて吟味したい
    ①規範的なICOは楽だが、有価証券発行と異なり投資家への訴求力に限界がある②有価証券的ICOは投資家訴求がしやすいが、違法・脱法的
  • 今後有価証券型ICOに対する規制が強化され、規範的ICOに純化していくという予想に基づけば、ICOが伝統的資金調達を大きく揺らがせることはそこまでないのではないか
  • 別途、「法規制に服しつつ、単に決済や証券引渡をブロックチェーン技術で簡素化するような資金調達」も将来的には想定され、その場合は証券会社や銀行が中抜きされる懸念も想定しうる。しかしこの場合においても、株主・債権者と経営者の間にある情報の非対称性をブロックチェーン技術は何ら解消しない点は割り引いて考える必要があろう
  • 例えば、「証券会社の公開引受部及び東証の審査部がきちんとスクリーニングした企業の証券」と「ブロックチェーンにより証券会社や証券取引所を中抜きした証券」では、取引コストこそ後者に分があるかもしれないが、後者は情報非対称性ディスカウントにより前者対比で非経済的となろう(前者では100億円を調達しようと思ったら持分の1%を渡せば済む場合、後者では持分の3%くらい渡さないと調達できないはず)


参考文献


・「仮想通貨とブロックチェーン」・・・新書でお手軽な割に、ずいぶんと分かりやすく、まず読むには最適の一冊。
・「アフター・ビットコイン」・・・題名がセンセーショナルなのか話題になっているが、元日銀マンによる決済に関するマニア本であり読み応えあり
・Startup Innovator(リンク