2019-03-30

言うことがコロコロ変わる人をどう理解すればいいのか?

若手の頃、やり手の上司がいたのだが、その人はとにかく言うことがコロコロ二転三転する人だった。朝令暮改、君子豹変するを地で行く人だった。

「行くぞ」と言ったと思ったら「退くぞ」と言ったり。
「チャレンジせよ」と尻を叩かれたと思ったら「慎重にやれ」と首根っこつかまれたり。

そして時を経て今、あろうことか、自分も言うことがコロコロ変わってしまっていることを自覚している。

我ながら反省することも多いのだが、他方で、そのようになってようやく「なぜ人は言うことがコロコロ変わるのか」問題について、その原因の一端をつかめた気がする

自己弁護するわけではないのだが、ダメだから二転三転するのではなく、しっかりしているからこそ二転三転することがありうるのだ。

以下、コアバリューという言葉を軸に、少し考えてみたい。




二転三転がダメな場合:コアバリューがなく、根無し草状態


自分で考える経験が足らないまま偉くなってしまった人にありがちな現象として、土台となる価値観(コアバリュー)がないため、部長に言われればXと言い、常務に言われればYと言い・・・とフラフラしてしまう人は多い。いわゆる根無し草だ。

そういう根無し草的な人の二転三転は、チームの意思決定の質や所要時間を悪化させるだけで、害悪であることが多い。そのような人の発言を数式化すると

発言X = f(状況)

と、状況だけに依存する1変数関数となる。そのため、状況が180度ひっくり返ると、得てしてその人の発言も180度ひっくり返る。

中間管理職にこのようなタイプがいる場合、得てして、その人を中抜きしたパススルー現象が起こりがち。色んな現場で、担当者と、2,3階級上のビッグボスがダイレクトに議論を始めるような現象が起こっていないだろうか。


二転三転が合理的になる場合:コアバリューがあるからこそ、状況変化に応じて発言が変わる

他方で、コアバリューを持っていると、むしろ発言が二転三転する

コアバリューのある人の発言を無理やり数式にすると

発言X = f(価値観、状況) 

となる。これを言い換えると、コアバリューがある人の発言は、価値観だけで決まる1変数関数ではないということだ。

状況だけに依存するわけではないため、状況が180度ひっくり返ったとき、コアバリューがある人の発言は180度もブレないこともあるし、逆に270度くらいひっくり返ることもある。状況と発言が1対1対応しないのだ。

ここでのポイントは、コアバリューが一意に固まっていたとしても、もう一つの変数である状況が変われば、発言は変わるということだ。



例として、ある会社について考える。

その創業者が始めたとあるプロダクトについて、数年後にその創業者が突然「このプロダクトはもうやめよう」と言い出したらどうだろうか。

普通は、そのプロダクトを創業者に代わり運営していた部門は大混乱に陥るだろう。その部門では、創業者自身というより、そのプロダクトにロイヤリティを感じる社員も多いだろうし。



しかし、もし、その創業者が価値観として「新しいことをやって、世界を切り開こう」という信念を持っていたとするとどうだろうか。

その場合、創業者の価値観は変わらないが、状況が
昔:そのプロダクトは、世界にとって新規性があった
今:競合も十分増えており、そのプロダクトが世界を切り開いているとは思えない
と180度変化しているようなことが考えられる。

このようなとき、当該部門の社員が、価値観として「このプロダクトを運営する」という表面的なかたちで理解していると(創業者から見て表面的という意味)、創業者のプロダクト撤退宣言は裏切りや屈辱に聞こえてしまうだろう。

しかし、もし社員が、より根底にある価値観たる「新しいことをしよう」という根っこの部分から創業者と通じ合うことができていればどうだろうか。多少の摩擦くらいはあるかもしれないが、最終的にはその判断に、最低限理解を示すことはできるだろう。

上記の例が示す通り、このような「価値観は変わっていないが、状況が変わることで生じる二転三転」は、メンバーがそれぞれ、根っこのレベルから価値観を共有することができていれば、そこまで非合理的には映らないだろう。



これは、バリューを共有するということが、単なる「組織論における最近の流行り」ではなく、実務レベルでのリアルな課題であることを示している。

世の中目まぐるしいので、人の価値観はそこまで変わらないかもしれないが、状況は日々刻刻と変化する。

そのような世界観においては、発言とか施策とか、表面的な部分だけなんとなく共有しているだけでは、上記のような「価値観が変わらないからこそおこる、状況変化に対応した二転三転」をチームが消化できなくなってしまう

このような二転三転を混乱なくチームが消化し、機動的に前に進もうとすると、どうしてもコアバリューの理解が必要になる。コアバリューの共有ができていれば、状況が変わったことで発言が二転三転しても、「そりゃそうですよね」となり組織の摩擦係数は大幅に低下するだろう。