弁護士に交渉を任せてはいけない!?
その本にある内容の一つで、面白い話として、「弁護士を使えば交渉が優位に進む、とは限らない!」という議論があった。いわく- 弁護士は単に法律を多く知っているだけ。交渉それ自体のトレーニングを受けているとは限らない
- 弁護士の多くは、敵対的交渉スタイルに慣れていて「交渉」と「戦い」を混同している傾向がある。もしあなたがWin-winを目指している場合には交渉をぶち壊すリスクさえ存在する
- 弁護士は勝つことというよりも、むしろ負けないことに力点を置きがち
とのこと。
それに対する自分の感想
この話は、まあわからないでもないと個人的には感じている。
自分も複数回過去にとある案件の交渉に弁護士に立ち会ってもらったことがあるが、相手方の弁護士と当方の弁護士の会話がうまくかみ合わない経験がある。たとえば以下のような感じ:
- 突っ張る:互いに譲り合う感じにならず「引いたら負け」みたいな突っ張った会話になってしまう
- 木を見て森を見ない:細かい法律の話になってしまい、木を見て森を見ないモードになりがち
- 僕の仕事は法解釈領域だけよ:純然たる法律解釈論に終始してしまい、法解釈レベルでこちらの分が悪いと判明した瞬間に「あ、すいません、これは分が悪いです」と実質的に弁護士が交渉をあきらめてしまう
- 正しさ勝負:より正論を言った方が勝ちであると、謎の別ルールに縛られているのか、「自分は正論だ」「相手は間違っている」等、正しさ勝負に走る。正しさと交渉の強弱の間にある微妙な違いに無自覚的
結局は土俵次第か
本の記述も経験談も踏まえて色々考えるに、だいたい以下のような感じなのではないかと思っている。
- ロースクールや司法試験のカリキュラムを熟知しているわけではないので確かなことは言えないが、弁護士の専門性はもっぱら(あるいは、どちらかというと)法律それ自体に向いており、交渉それ自体のトレーニングをすべての弁護士がきちんと受けているわけではないのではないか。
- 裁判等を中心に、交渉に求められる資質に占める「法律知識それ自体」の割合が高い交渉においては、交渉スキルというよりは法律知識それ自体が価値をもつ。その結果交渉は弁護士の独壇場となり、「交渉は弁護士に任せておけ」という話になるのではないか
- 他方で、法律も重要ではあるがビジネスジャッジも相応に重要である交渉の場合は、交渉に占める法律知識のウェイトが下がり、交渉スキルの相対的重要度が上がる
- そうなると、必ずしも弁護士が法律同様にトレーニングを受けているわけでもないので、少し様子が変わってくる
- 土俵を知る:まずは、今から行う交渉がどのような交渉で、そこで求められる能力は、法律とそれ以外どのくらいのウェイトを見極める
- 弁護士を知る:弁護士を雇うときには、おそらく「どの事務所か(事務所の看板)」「どの分野の専門家か」等はチェックするだろう。実際そのあたりが選定にあたっては主要ポイントになるとは思うものの、起用する前後で、その弁護士の交渉能力も見極めるのがいいのではないか。
仮に交渉の土俵において法律知識以外が求められ、かつその弁護士の強みが交渉というよりは法律である場合には、弁護士に頼っても良い度合は低下し、自身の交渉スキルの重要度が増す
- 逆に土俵分析の結果法律自体が重要であるときには、変に交渉スキルを発揮しようなど考えず、弁護士を信頼し、任せる
- すなわち、Yes and No, it dependsといういつもの話になってしまうが、実際そういうことなのではないだろうか