以下、なぜその言葉がイマイチだと自分が考えているのか、少し書いてみたい。
「そんなつもりじゃなかった」
たとえば、あるリーダーが、一つの施策を発表したとする。その施策が始まってしばらくすると、得てして、そのリーダーの思いとは少しズレた行動をする人が現れる。あるいは、そのリーダーの問題意識とはズレた形でメッセージが普及してしまうようなことが良く起こる。
このとき、そのようなリーダーがついつい言ってしまいがちなのは「俺はそんなつもりじゃなかった」というセリフ。
「そうじゃなくて、XXXをしてほしかったのに・・・」とか
「俺はXXXという趣旨なので、その批判は間違っている」とか
「俺の言いたかったことはそうじゃない!なぜ曲解するのだ、けしからん」とか。
こうやって書くとその馬鹿らしさがわかりやすいかもしれないが、案外組織の現場では多くの人がついつい言ってしまっているのではないか。
論点①:相手が受け取るのは「あなたの思い」ではなく、その表象(認知論、あるいは伝言ゲーム性を理解すべき)
第一の論点として、「そんなつもりじゃなかった」という発言は、あなたの「認知論に対する理解不足」をさらけ出してしまう。およそリーダーやマネージャーになる人は、あなたの考え・思いが他人に伝わるまでのプロセス、すなわち認知プロセスについて自覚している必要がある。すなわち、
あなたの心の中にある考え・思い
↓
(脳内イメージと、アウトプットの間のズレ)
↓
あなたのアウトプット(言葉、文字、資料等)
↓
(あなたのアウトプットと、読み手の認知のズレ)
↓
あなたのアウトプットに対する、読み手の認知
と、「あなたの脳内での思い」と「読み手の認知」の間には複数のハードルがある。
相手が認知するのは、あなたの心の中にある「あなたにとっての真意」ではなく、そのアウトプットをさらにその相手がその人なりに認知・解釈したものになる。
言い換えると、コミュニケーションは、不可避的に、常に伝言ゲーム的要素を内包している。
このような
- 脳内イメージと、アウトプットの間のズレ
- アウトプットと、それに対する相手の認知・解釈のズレ
という2つのズレを理解・意識した上でその最小化を図るのがリーダーに求められるコミュニケーションであろう。
コミュニケーションがそのような「構造的に伝言ゲームである」という自覚があってこそ、初めて人は伝え方を工夫したり、相手との対話に気を遣うことができるようになる。
コミュニケーションがそのような「構造的に伝言ゲームである」という自覚があってこそ、初めて人は伝え方を工夫したり、相手との対話に気を遣うことができるようになる。
それゆえ、「そんなつもりじゃなかった」という発言は、こういった認知のハードルへの理解不足をさらけ出す発言に他ならず、「私はリーダーとしての訓練が足りていません」と自ら白状するようなものではないかと感じている。
論点②:伝わらない?いやいや、伝えるのがリーダーの仕事です(発言することではなく、届けること)
上記の認知論(伝言ゲーム性)の話と似ているが、リーダーに求められるコミュニケーションのもう一つのポイントとして、「発言するだけではダメ。伝えてナンボ」と言うところがあると思っている。
そういった発想から「そんなつもりじゃなかった」発言を検討すると、この発言は「伝えてナンボ」という発想の欠落を如実にさらけ出している。
「そんなつもりじゃなかった」と愚痴る暇があれば、少しでも「希望通りの形で伝わるための工夫」に時間を割くべきであろう。あるいは、「思う通りの形で伝わらなかったことを反省せよ」という話ではないかと思う。
論点③:そこに透けて見える自己防衛心は、リーダーシップの真逆(組織より自分が大事な人に見えてしまう)
個人的に「そんなつもりじゃなかった」発言の一番の問題は、その発言からその人の自己防衛本能の強さが透けてしまうことではないかと思っている。
リーダーに求められる素質は色々あるだろうが、自己犠牲心(あるいは、自己利益と組織利益をきちんと分けて考えた上で、組織利益を尊重することができること)はかなり重要な資質の一つではないかと思っている。
そういった立場から議論すると、「そんなつもりじゃなかった」発言から漏れ出る自己防衛性は、その人が組織利益よりも自己利益を優先するのではないかという印象を与える。
それどころか、論点①②のような「リーダーとしての訓練が足らない」という程度の話ではなく「リーダーとしての資質が欠落している」という致命的なレベルの話なのではないかと思っている。
自分の立場や納得感を「他人にきちんとわかってもらうこと」より優先させるような人物に果たしてリーダーが務まるのか。うまく伝わらなかったときに、その悔しさを、わかってくれなかった他人に転嫁することの恥ずかしさをどう考えるのか。
まとめ
筆者は、リーダーに求められる資質として
①コミュニケーションに構造的に内在する伝言ゲーム性(認知のズレ)を自覚すること
②伝わってナンボであり、伝わらない限りはどんな素晴らしいアイディアも無価値であること
③自己利益(あるいは、自己の満足感)と組織利益を意識的に区別し、組織利益を尊重すること
があると思っている。
そのような立場からは、「そんなつもりじゃなかった」という発言は、上記3つの資質の全てについての欠落・未熟を示すものと解釈される。
リーダーではない一般人が飲み会の愚痴や負け惜しみで「そんなつもりじゃなかった」というのは心情的になくはないとは思う。
ただ、少なくとも仕事においては、リーダーが「そんなつもりじゃなかった」というのは、リーダーとしての自殺宣言に他ならないように考えている。