2013-02-17

You can be nice

交渉において陥りがちな誤解に、「交渉相手は叩くべき敵である」という発想がある。敵=警戒すべき、隙を見せてはいけない、笑ってはいけない、一歩も譲るなかれ、etc.

しかし、自分は、この発想は必ずしも有効ではないと思っている。




利害の一致するポイントがあれば、相手も自分も得する

交渉においては通常複数の論点があるが、その全てが対立的なものとは限らない。むしろ、かなりの可能性で、両者が利害一致できるような論点は存在する。

・彼氏と彼女で新婚旅行先を決める交渉で、とにかく安く済ませたい彼氏と、とにかく海外い行きたい彼女。そんなとき、韓国であれば下手な国内より安いし海外である

・小売店とメーカー。売れ筋を大々的に陳列して集客したい小売店と、自社一押し製品を小売店に陳列してもらって売上を伸ばしたいメーカー。そんなとき、そのメーカーの製品を陳列することは、両者の利益にかなう

このような利害が一致するポイントを見つけて、全体のパイの大きさを拡大することは、交渉における最重要イシューのひとつ。その後どのような分け方をするにせよ、まずお互いの努力によりパイを最大化できれば、それぞれの個別の取り分も多かれ少なかれ大きくなる。

そして、そのような利害一致点を見つけるために必要になるのが、協調的な態度。協調的な態度をもって「私はあなたと一緒に、パイを最大化する最適な状態に到達したいんです」という態度で臨むことでパイを最大化し、その次のステップとして最大化されたパイの奪い合いをすればよい。ちょっとでも多くパイを自分のものにしようという努力は、協調によりパイを最大化してからでも遅くはない。パイが大きくなれば、その次の奪い合いフェーズで多少押されても、もともとの状態を考えれば負けたあなたも十分勝利感を得られることすらありうる。

他方、まず敵対的に始めてしまうと、そこからパイの大きさを最大化することはかなり難しくなる。そうなると、小さいパイの壮絶な奪い合いになり、両者共に消耗し、下手をすると奪い合いに勝った側の人ですら勝った感覚を得られないかもしれない。

繰り返しになるが、よほどシンプルな交渉でない限りは、必ず利害一致点は存在するので、交渉にあたっては以下のような対応が常に望ましい:
①まずは協調的な態度で臨む
②対立的な論点は、仮にそれが重要であっても後回しにする
③協調可能な論点を優先することで、全体のパイの最大化を図る
④協調可能論点の解決によりパイを最大化してから、初めて対立的論点(パイの奪い合い)に着手する。

そういった発想を共有できる相手に恵まれたなら、交渉は充実したものになるだろう。

Good Guy Tactics

発想云々ではなく、純粋に交渉上の戦術として、いい人を演じることで交渉の立場を優位に運ぶことができる。これがGood guy tactic。

基本的な仕組みは、相手に対して以下のように振る舞うもの:

・「私自身は、あなたの味方なんです。あなたと同じ目線で、むしろあなたの意見をかなえたいと思っています」
・「でも、私のボスが厳しくて、あなたがちょっとでいいので妥協してくれないと納得しれくれないのです」

つまり、「利害が一致した仲間」と装い、実在あるいは架空の「自分の裏に控えている人」を悪役に仕立て、「いっしょに、私のボスを納得させましょう」とまるで共同作業をしているかのように相手に妥協を迫るもの。

これは、あなたが自分の言葉として「ワタシ自身、あなたの意見に賛成できないので、妥協して頂きたい」などと相手に直接言うのと比較したらかなり違う結果になることが想定される。つまり、いい人を装うことは、交渉戦術上望ましいのだ。


まとめ

・戦略レベルにおいては、協調的な態度で交渉をスタートさせることができれば、パイの最大化を図れる

・戦術レベルにおいても、いい人を装いGood guy tacticsを使うことで、交渉を有利に進めることができる

・よって、交渉においては、可能な限りいい人であろうとした方がよい。いきなりHard Negotiationする人はBad Negotiator.