2013-01-13

9倍効果とサラリーマン

9倍効果とは

9倍効果とは、HBSのGourville教授により提唱されたコンセプトで、心理学に基づくもの。彼によると...




  • 顧客は、新商品のメリデメを客観的には見ることができず、デメリットをメリットの3倍ほど重視する。
  • さらに、製品の開発者たる企業側も、新商品に入れ込み過ぎて、メリットをデメリットの3倍過大評価する傾向がある。
  • このように、顧客も企業もバイアスがかかってしまっている結果、「企業が認識する新商品の価値(Perceived value)」と「顧客が知覚する新商品の価値」の間には、知覚バイアスだけで9倍もの開きが出る。これが9倍効果(The 9x Effect)で、企業はこれを乗り越えなくてはならない

9倍効果の事例 @日本のサラリーマン


たとえば、あなたは日本企業で働く中堅社員だとする。だいぶスキルもついてきて、色々野心が湧いてきている。

今、あなたが、なにか社内でひとつ新しい企画を披露したとする。新商品かもしれないし、既存の社内オペレーションの改善策かもしれない。そのとき、その提案を受けた同僚(上司とか)は、意識的に、あるいは無意識のうちに、その企画のメリデメを知覚する。

いま、客観的に見たら、あなたの企画は、ほんのわずかだけメリットの方が大きく、NPVで3億円の価値があるとする。このとき、上司が期待効用仮説に基づき意思決定するのであれば、この新企画はメリットの方が大きいとして上司に受け入れられる可能性が高い。

しかし、ここで9倍効果のロジックを持ちだすと様子が異なってくる。

上司は、「既存商品との食べ合わせが悪い」「既存オペレーションを変更する手間が大きい」などというデメリットを、新企画がもたらすメリットよりも3倍ほど過大評価してしまう。すなわち、客観的に見たらメリデメ考慮して3億円相当の価値がある相当のあなたの企画は、上司にとってこの新企画は1億円くらいにしか見えない。

さらに、これを企画したあなたは、長年に渡りプランニング・作り込み等に苦心してきており、もうこの企画を客観的に見ることができなくなっている。客観的にみれば3億円くらいの価値しかないあなたの企画は、あなたの歪んだメガネで見ると9億円もの価値があるすごい企画に見えてしまう。

このように、あなたにも上司にもバイアスがかかっている結果、本来は3億円程度の価値があるこの新企画は、上司には1億円くらいに見えてしまう一方で、あなたには9億円くらいに見えてしまう。結果として、あなたと上司の間で、この企画に対する評価は1億円と9億円で9倍もズレてしまう。

結果として、
あなた「どうですボス、この企画素晴らしいでしょ?」
ボス「は?え、いや、ごめん、全然」
あなた「」
みたいな事態がよく起こる。

9倍効果のインプリケーション

9倍効果から得られるメッセージは以下のようなもの:
  • バイアスの自覚:まず、上司のなかに-そしてあなたの中にも-新企画をありのままに見ることができないバイアスが潜んでしまいがちなことを自覚する必要がある。「上司がわかってくれない。。」とぼやくのではなく、「人間だもの、そんなものだよね」と考える方が良いと思われる。
  • デメリットの極小化:上司が新企画を過小評価することを踏まえると、「いかにデメリットを小さく見せるか」「いかに既存商品からの切り替えを容易にするか」とかなり重視することが望ましい
  • 10倍を目指す:仮に既存製品のクオリティを100としたら、101、あるいは110くらいのクオリティのプロダクトでは全然駄目。あなたの目から見て9倍を超える10倍くらいのクオリティのある企画を出して初めて通る、という発想で臨む
  • 他にあたる:既存品になれてしまっている上司に対しては10倍頑張らないと話が通らないが、既存品に触れていない他の人であれば、新しい企画を客観的に見てくれる可能性がある。ターゲットを変えるだけであっさり話が通る可能性を捨ててはいけない
といったあたりだろうか。無理矢理ひとことで言うなら、「まあ、他人なんて、そんなものだよね」と自身の期待値を下げておくことがエッセンスということかな。



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Further Reading:
ギルボア『意思決定理論入門 』(→リンク)