2013-01-10

買収時におけるのれんの取扱い

のれんについて、その会計・税務まわりに関するところのメモ。

<事例>

・A-Coが買収会社、T-Coが被買収会社。
・T-Coは、資産が時価80、簿価40。負債はない。
・想定する取引は以下の通り2ステップ。
     -ステップ1:A-Coは、T-Coを現金100で買収。
     -ステップ2:その後A-Coは、T-Coを吸収合併。
・単純化のため、株式譲渡とか新株発行とかを一律に『買収』、合併とか分割とかを一律に『合併』と呼ぶ
→このとき、会計上・税務上の取扱はどうなるだろうか?あるいは、結局のところ、のれんは損金計上できるのだろうか?


 <のれんの取扱>


  • 会計上
    • ステップ1:A-CoのB/Sで、子会社株式が100計上されて、現金が100減る。T-Coの単体B/Sは簿価40のまま。連結B/Sは、子会社株式100とT-Co資産時価80を調整するためにのれん(連結調整勘定)が20計上される。
      ※それぞれの単体B/Sにはのれんが現れない点注意
    • ステップ2:A-CoのB/Sに、T-Coの資産時価80が計上され、買収額100との差額20はのれんとして計上される。
      また、資産の含み益相当額40について、税率40%を考慮した16について、のれん 16/繰延税金負債 16 が計上される。
      よってトータルでは、のれんは36計上される
    • のれんの償却(費用計上):JPGAAPに基づき、のれん36が20年分割償却される。すなわち年間1.8ずつ償却される
  • 税務上
    • ステップ1:この時点では、それぞれの単体B/Sにはのれんは表れず、子会社株式が取得価額100で計上される。
    • ステップ2:適格合併であり、T-Coの資産簿価=純資産簿価40がA-CoのB/Sにキャリーオーバーされる。のれん(資産調整勘定)は発生しない。
      子会社株式の100が消えて、資産簿価の40が加算されることになるが、差額の60は損金計上されない
    • つまり、ステップ1、2いずれのプロセスでものれんが発生しない。
    • のれんの償却(損金計上):のれんは発生しないので、当然損金計上もされない。よって損金はゼロ

<モデリング上の留意点>

  • EBITの計算にあたっては、のれん償却を考慮する必要がある。
  • しかし、法人税額計算にあたっては、のれん償却前EBITを計算のベースとしなければならない。すなわち、のれん償却費が含まれてしまっているEBITに無邪気に税率40%を掛けてしまうと、のれん償却費×税率だけ法人税額を過小推計してしまうことになる
  • ところで、この「買収後ただちに合併」というトランザクション、適格合併によるNOL継承が目的なんだろうけど、場合によってはキャッシュを払って非適格合併してしまう方が買い手にとって望ましいように思うがどうなんだろう。
    • 課税標準:いきなり非適格合併すれば、取得価額の100とできるので、将来売却時の税務上の譲渡益を圧縮できる
    • のれん:この方法であれば資産調整勘定が発生するので、のれん償却費を損金計上できる
      ※ただし、下記の通り、会計上の償却ルールと異なるので、いずれにせよ会計費用と損金にズレが生じるのだけど。。

<参考>

  • のれんは会計上、日本では20年償却、米国では償却禁止(減損のみ)
  • のれんは税務上、日本では60か月で償却、米国では15年償却。
    ※ただし、上記のような買収→その後合併というスキームでは資産調整勘定は発生しない。ダイレクトに非適格合併をしないと資産調整勘定は発生しない