2013-01-19

戦略サファリ:批判は小気味いいが、でもやっぱり違うのでは

最近読んだ「世界の経営学者はいま何を考えているのか」に刺激を受けて、関連本と言える「戦略サファリ」を読んでみた。

ミンツバーグについては、以前「MBAが会社を滅ぼす」を読んだり、各種インタビュー記事などを目にしたりしていたので、その芸風(?)は理解していたが、本書も彼の主張が貫かれており、「ああ、ミンツバーグ節だな」と思わずにはいられなかった。

で、MBAを終えてこれからまさにその学びをどう使ったものか模索している立場から、このあたりについて思うところをメモ。



ミンツバーグの批判:分析すりゃいいってもんじゃない


ミンツバーグは、ポーター的戦略観について色々な観点で批判を展開しているのだが(外部環境ばっかり見て、自社に対する考察が欠落している/戦略策定と実行が分離していて、組織の学習とかを取り込めない/etc)、とりわけ、
いくらガシガシ定量的に分析しても、できることは精々、定型的な戦略レシピの中から一つを選ぶことくらい。分析が企業個別の戦略を創造することはできない
と、その分析万能主義を強くこきおろしている。

で、ここを読むと、MBA上がりで分析大好きの自分とかは、まさにゲホっと咳込んでしまうのだが、大体で言うとこんな風に考えている:

Playerを目指すなら、それは確かにその通り


まず、本稿では、日本の実情を考慮して、経営者・実務者を包括的にプレーヤーと書くことにして経営者と執行者と現場をあえて分離しない。また、金融機関やコンサルタントなどを分析者と書くことにする。

自分は現在、金融というアウトサイダーの立場から、顧客・顧客候補の企業を多方面から分析するという作業に従事している。くわえて、顧客企業の価値を高めるべく(毀損しないように)、彼らの経営にもある程度アクティブに関与している。
※まあ末端だけど

そのような、経営に関与する身として日々痛感するのだが、自分がプレーヤーとして戦略を策定・実行・改善し結果を出すことを想定すると、本当ミンツさん(?)の仰る通り、分析だけでは全然駄目だという感触をもっている。

さすがにMBAに行っているので、企業のことは理解できる。財務・競合・プロダクト・マクロ環境・顧客・技術動向・etc.多かれ少なかれ定量的にも見ているし、今後一層その分析を深めていくことを予定している。

でも、理解することと、戦略を策定し遂行することの間には、やはり絶望的なくらい大きなへだたりがある。いや、正確に言うなら、例えば「御社は高付加価値戦略で行くべきです」みたいな薄っぺらいことは言えると思うし、それを具体化するためのちょっとしたプロセスマップも書けると思うけど、それに魂を入れることができるかと言われると絶対無理だと感じている。

プレーヤーとして、力強い戦略を遂行するためには、やはり①その企業での実務経験②その企業の組織文化の体得あたりが絶対的に必要であると感じている。

※もちろん、分析力もまだまだ修行が必要

でも、ツールキットをもって修行した方が、早く立派なPlayerになれると思う

真に力強い戦略家になるためには、現場の理解が必要だし・ハードデータの要約版だけ見ててもだめだし、組織の理解が必要だと思う。その点において、MBAでちょっと分析ツールキットを学んだくらいでは全然通用しないのはその通りだと思う。

でも、その分析ツールキットで戦略を作ろうとするのがマズいのはわかるんだけど、その分析ツールキット自体は悪くないと思うのだ。道具は所詮道具であり良いも悪いもなく、その使い方が最終的な良し悪しに反映されるだけなんだと思う。

上記のような修行をするにあたっては、やはりある程度の効率性・スピード感をもって企業という複雑な有機体を消化していかねばならない。で、そのためには、MBAツールキット、すなわち「論点がどのあたりにあるか」とか「こういった典型的な問題に対する典型的な解決方法がどのようなものか」とかいう基本をもっていれば、やっぱり修行の効率性は高まると思うのだ。

自分の例で言うと、MBAに行ったおかげで①経営に関する分類学(戦略とかマーケティングとかオペレーションとかいう大分類、ブランドマネジメントとかサプライチェーンマネジメントとかいう中分類)とか②それぞれのあらまし(その分野の基本的なフレームワーク)とかは体得しているし、さらには③万一、特定の分野を深掘りする必要が出てきた場合、どの本を読めばいいか、誰に聞けばいいかというところも勘所は得ている。そういったツールキットがなければ、自分は顧客企業というカオスを前にオロオロしてしまっていたことであろう。

つまり、分析に過度に依存して戦略を作ることは確かにナンセンスだと自分も思うが、分析力を身に着けてから修行に入ることは極めて有用であり、結局のところ分析力は有用なのだと考えている。

Analyzerにとって、ツールキットは非常に有用


上の言い換えみたいなものだが、自分の仕事の半分は企業の分析である。単に財務分析だけしていればいいということもあるが、多くの場合は、彼らの戦略・組織・オペレーションなども理解しないと十分な意思決定ができない。

で、ことその用途が「顧客企業の理解」であり、「戦略の策定」まで行かない場合は、MBAツールキットは極めて有用なのである。

「アウトサイダーとして企業を理解するだけならともかく、実践にあたっては分析だけじゃダメよ」ということに絶えず留意さえできていれば、分析ツールは所詮道具、使い方次第で十分善をなすのだと思う。

分析至上主義に陥ることには常に注意が必要


ただし、分析に限界があるということは常に留意する必要があり、「完璧たりえない分析に基づく自分達アウトサイダーの働きかけが、企業のもっとも望ましい行動を阻害する」みたいなことにはならないようにせねばならない。

経験によりX事業を継続した方が良いと考えているCEOに対して、足元の赤字等を理由に撤退を促すことは、勿論リーズナブルではあるが、「分析では拾いきれていない何かを取りこぼしている」という可能性には常に敏感であるべきなのだろうと思う。

アウトサイダーとして金融がすべきことは、分析結果に基づき現場を知るCEOの行動を強制的に曲げるというよりは、Devil's Advocateみたいな位置づけに立ち、「分析によると撤退した方がよさそうですが、どうでしょうか」とより深い議論を引き起こすということなのではないか。