2013-01-17

意思決定理論入門

意思決定理論入門(Link)

意思決定論の大家ギルボアがエントリーレベル向けに書いた教科書。文末に示す通りギルボアには意思決定に関する複数の教科書があるが、そのうちもっともわかりやすいもの。
この本を読むことで得られるSkill setについて概観してみた:

(追記)その後も意思決定に関して試行錯誤することが多かったので、この辺の議論を議論を自分なりに再整理してみた。そのリンクは以下の通り:

記事①

記事②

記事③



  • 人が意思決定の際に行いがちなバイアス・ヒューリスティックにはどのようなものがあり、それを克服するためにはどうすればいいのか
  • 基本的な統計のコンセプトが、どう意思決定に関連するのか
  • なぜ、状況を自然言語ではなく数式でモデル化することが有用と学者は言うのか
  • 決定木(Decision Tree)の作り方・読み方
  • ベイズ統計と古典的統計学はいったいどう異なるのか
  • リスクと不確実性は何が異なるのか
  • リスクがあるとき、不確実性があるときにおける意思決定モデル
など。

例題が豊富で、議論はその例題への解説というスタイルで進むので、その辺は非常にMBAっぽい。こと不慣れな分野については、理論の解説→練習 という日本スタイル(?)より、例題→解説を通じて理論修得 という米国スタイル(?)の方がスムーズに理解できるので、そういう意味でこの教科書は非常に読みやすい。

特に自分が気にいったのは、
「なぜ、数式やDecision Treeでモデリングすると良いのか」(→自然言語だと、言葉のニュアンスでどうしてもミスコミュニケーションが生まれる)
「結局のところベイズ統計とは何で、従来の統計学とはどう異なり、その差異は実務上のインプリケーションはどんなものなのか」(→主観的確率ベースであり、客観的説得というよりは自身の内的意思決定に使いやすい)
といった、ツールセットはこれまでも使えたものの基本的な考え方がいまひとつ理解が足りなかったような分野で、非常にわかりやすい説明が得られたこと。

完全なる新情報に溢れているというわけではないので、ついつい「そんなの知ってるよ」となってしまいがちなのだが、上記のような理由により、痒いところに手が届く便利な教科書。

でもやっぱり、実務上、意思決定にあたりDecision Treeは作らないよね。。。

Further Reading:

合理的選択:ギルボア意思決定3兄弟の次男。選択や意思決定について、主に定性的な議論で説明されており、実務家には一番有益かも。

不確実性下の意思決定理論:ギルボア意思決定3兄弟の最難関。正直数式の全ては自分も理解できていないが、端々にある各種議論は非常に有益で、数学がわからなくても、意思決定に携わる人が持っておいて損はない

決め方の科学―事例ベース意思決定理論:ギルボア本の別バージョンで、不確実下における意思決定の一つのアプローチである事例ベースアプローチの教科書。正直なところ実務に使えるほどではないように思うが、ベイズ更新と何が違うのか?という問題意識を持ちながら読むと面白い

ファスト&スロー:この手の意思決定理論では、通常期待効用理論という「人は把握できる範囲で合理的にふるまう」というモデルをベースに理論が展開されるが、トベルスキーとカーネマンはその土台にある期待効用理論に修正を行っている。これだけでは意思決定実務に十分ではないと思うのだが、読んでいないと恥ずかしいレベルの必読書だと思う