2012-08-03

で、MBAって使えているのか

MBAでの学びで、仕事で役立っているもの。
帰国後1カ月の若輩者の速報ベースなので、あくまでご参考まで:

カテゴリーA:ただちに役立っていると思うこと

・英語・・・
どちらかというと読み書き。一応リスニングとスピーキングもほんのちょっとだけ使う機会があった

・戦略論・・・
これが一番かも。ビジネスの競争環境はどうか(プレーヤーの数、マーケットの需給、5 Forces等々のレンズで)とか、あるビジネスのコアコンピタンスがどこで、どこについてはノンコアで外出し可能な要素であるか等、半ば無意識レベルで検証しようとする基本的態度みたいなところは、投資ビジネスでかなり役立っている。勿論留学前もトライはしていたが、今振り返ると、フレームワークを体系的に学んでいなかったので、昔のはいかにも素人くさい。「ものごとがうまくいっていないのは、得てしてその上層レベル、戦略レベルのところに問題があるからだ」的発想も、要所要所で役に立つ

・Back of the envelopeの発想・・・
自分の学校で言うと、アントレファイナンスで叩き込まれた発想。
まだ新規案件が溢れているわけではないので精緻なモデルを作る機会には恵まれていないが、案件になりそうな話について、上司のオーダーに基づきブルームバーグとかでさっとデータを取って、紙と電卓でできるレベル感で粗々の相場観をさっと計算するという作業。学校で「コレとアレを押さえておけば、なんとなくのバリュエーションはできてしまう」といった練習を重ねていたので、こういった「Back of the envelopeで取り急ぎ相場観を出して、必要に応じてその後精緻に検証していく」というやり方は非常に役に立っている。
・「理想を目指すのではなく、現状の制約条件化でとりあえずやってみる」という起業家的発想・・・
これもアントレファイナンスでの学び。ともすれば「この案件は●●といった観点んで戦略的に無理そうだ」「自分達も、●●がやっているような洗練されたディールを模索すべきだ」等、ついつい現状を軽視しつつ理想論ばっかり語ってしまい、結果として何も物事が前に進まず絵空事ばかり言う...みたいな感じに陥りやすい。特に、なまじMBAなんて取っちゃったので、いろんなことがnot so sophisticatedに見えちゃったりしたり。
そんなとき、あの教授から叩き込まれた「現状の制約条件を踏まえた上で、条件付き最大値を目指す」みたいな発想が心の支えになる。理想を模索する前に、とにかく目の前のできることをきっちりやっつける(できれば一工夫して付加価値をつける)イメージは、精神衛生上かなり良い。
・ポジティブな精神・・・
「とりあえずYesから始めてみよう」っていうアレ。具体的に利益とかに繋がったわけではないので厳密には役に立っていないかもしれないのだけど、少なくとも、この発想を大事にしているおかげで、精神衛生上ストレスが少ない気がする

カテゴリーB:自分は目下あんまり使ってないけど、上司先輩等が使っているので、たぶん将来役立つ(ので忘れないようにしないと)能力


・ネゴシエーション・・・
金融機関だと、契約書のやり取り(ドキュメンテーション)にメールや電話をかぶせるスタイルのネゴが多い気もする。また、電話や対面で色々な形でネゴシエーションは起こる。さらに言えば上司と部下の間でもネゴシエーション的なものはあるし。
上司がネゴってるのを目の当たりにしているとき、彼らがどのように状況を把握してどのような技を使って戦っているか、学校でネゴシエーションを学んだ今そういうものを見せてもらうと大変刺激的である。やっぱりしっかりしている人はそれなりに技を使っている気もするので(習わずしてできているのかもしれないが)、ネゴを学校で頑張ったことは少なからず将来のプラスになる木がしている。
ただ、目下、あんまり自分はネゴする立場に立つことが少ないので出番小。

・モデリング・・・
なんちゅうか、そもそも案件がそこまで無茶苦茶たくさん転がっているわけでもなく、案件の検討段階で使うのは上述のBack of the envelopeが主だし、そして案件があってもモデリングとかバリュエーションとかというのは全体工程のなかの1割程度に過ぎない感覚。
※とはいえバリュエーションは大事で、いま自分が勝手に師と思ってフォローしている人々も多くは口をそろえてバリュエーションの重要性を説く。その後のネゴやディールアレンジは本質的な勝因にはなり難いというのが彼らの、そして自分の意見。
ということで、帰国してから一回も、自分で「5期データを取って、それを伸ばして...」的な精緻なモデルは作っていない。まあ多分そのうち使うとは思うのだけど

カテゴリーC:(MBAの学びと言っていいかどうかは定かではないが)役に立っているもの


・できるだけメールを短くするという発想

・コスト感覚・・・
特に機会費用について意識的であることとか。なんというか、効率の鬼になってもいけないのだけど、ある程度効率性を意識するだけで仕事が精神衛生上楽になる
※おかげで残業代がたまらない

・他人への関心・・・
率直に言って留学前はコミュ障に近いところをフラフラしていたと思っており、他人にあまり関心がなかった(関心が自分の内的なところに偏在していた)と思う。でも、なんだか、帰国してからは結構いろいろ友人知人他人と会う機会に恵まれているし、意図的にそれを増やしている自分がいることに軽く新鮮な感じを抱いていたりもする。

・スマイル・・・
これも留学前は超絶下手くそだったのだが、今では「わりと下手」くらいにまでは改善したような。毎日毎日スティーブンとかジョーとかと「Hey whats up man? ニコリ」とかやってたのも案外無駄ではなかったというかかなり役立っている

カテゴリーD: 逆に、MBAのせいで弊害が生じていると思うもの



・キレイな案件が当然、みたいな発想に襲われがち・・・
完全にHBSケースに洗脳されてるんだと思うが、実務で我々が接する殆どの案件は、様々な意味でHBSのケースと比較して「キレイ」でなく見劣りしたりする。やれ戦略的整合性がない、やれ人の素質が、やれバリュエーションが云々。上記「制約条件の中で全力を尽くす発想」というのがなければ、自分はおそらくこの「案件潔癖症」みたいなやつに毒されて、既に転職活動を始めてしまっていたかもしれない。
(キレイな案件を求めて外資とか目指しちゃったりしてたと思う。そして、たぶん、外資にいっても自分が案件のキレイさで満足することはないのだと思う)

・実践主義と金融機関の相性・・・
ベンチャーじゃないので、「やってみなはれ」的発想は金融業とそこまで相性がいいわけではないと思われるが、今の自分はけっこう「やってみなはれ」に毒されており、近い将来のオペレーションリスクとかコンプラリスクとかには気を付けなくてはならない

・VCニガテ・・・
自分の通っていた学校やシリコンバレー等で無駄に耳が肥えてしまった。その結果、日本の、金融マンが技術を理解できないままエイヤーでやってしまっているVC投資にかなり絶望している。自分の会社もVC投資はやっているのでかなりよろしくないのだが、「エンジニアバックグラウンドの人主体のチームで、Googleみたいな生態系の頂点企業があって、(中略)じゃないとVCはビジネスとしてワークしない」とか「VCは捨て金でやるべき一種のクラウドファイナンスとみるべきだ」とか、そういう極端なことを考えてしまいがち。本来は、そんな日本のVC業界でどう頑張ろうかなぁという発想を持つべきなんだろうが(ってVCが仕事じゃないので必要ない発想なのかもしれないが)